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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)738号 判決

原告

天野昭一

原告

高橋花治

原告

武居静雄

原告

濱岡國彦

原告

供野邦敏

原告

西尾利通

原告

真通文晴

原告

荒堀光信

原告

佐々木康夫

右原告ら九名の訴訟代理人弁護士

松葉知幸

右同

小川恭子

右同

斎藤護

右同

田村博志

右同

三木俊博

被告

破産者アイ・シー・ベスト株式会社の破産管財人

芝康司

被告

右同

藤井勲

右被告ら両名の訴訟代理人弁護士

泉薫

右同

太田真美

右同

矢倉昌子

被告

坂本俊文

被告

永松惇子

被告

永松哲彦

被告

工藤邦宏

右被告ら四名の訴訟代理人弁護士

竹田実

右同

塩川吉孝

右竹田実の訴訟復代代理人弁護士

福本康孝

右同

門間秀夫

右同

小寺史郎

被告

澤田徹郎

被告

飯田克己

右被告ら両名の訴訟代理人弁護士

雨宮明敏

右訴訟復代理人弁護士

井上俊治

被告

坂本宣子

被告

坂本久美

右法定代理人親権者母

坂本宣子

被告

坂本宗久

右法定代理人親権者母

坂本宣子

右被告ら三名の訴訟代理人弁護士

山崎幸三

(凡例)〈省略〉

主文

一  別紙債権目録(一)記載の原告らが破産会社に対し、同目録金額欄記載の各金額の損害請求請求債権を破産債権者として有することを確定する。

二  被告坂本、同永松、同工藤及び同飯田は各自別紙債権目録(三)記載の番号一ないし三及び五ないし九の原告らに対し、被告永松、同工藤及び同飯田は各自同目録記載の番号四の原告に対し、同目録金額欄記載の金員並びにこれに対する昭和五九年二月一九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告坂本と同宣子との間において、本件(一)の不動産につき昭和五八年四月一日なされた財産分与(登記簿上贈与)(持分四の一)のうち全体の一二分の一部分並びに本件(一)の不動産につき昭和五八年四月二八日なされた財産分与(持分四分の一)及び本件(二)の不動産につき同年同月一日なされた財産分与(登記簿上贈与)(持分四分の一)はいずれもこれを取消す。

四  被告宣子は、原告らに対し、本件(一)の登記につき坂本俊文持分一二分の二移転登記とする旨の更正登記手続をなし、かつ本件(二)、(三)の登記の抹消登記手続をせよ。

五  被告永松と同惇子との間において、本件(三)、(四)の各不動産につき昭和五八年四月二四日なされた財産分与はいずれもこれを取消す。

六  被告惇子は、原告らに対し、本件(八)、(九)の登記の抹消登記手続をせよ。

七  原告らの被告澤田、同久美及び同宗久に対するすべての請求並びに同宣子に対するその余の請求を棄却する。

八  原告濱岡の被告永松、同工藤及び同飯田に対するその余の請求を棄却する。

九  訴訟費用は原告らと被告澤田、同久美及び同宗久との間においてはすべて原告らの連帯負担とし、原告らと被告宣子との間においてこれを五分しその二を原告らの連帯負担とし、その三を同被告の負担とし、原告らとその余の被告らとの間においてはこれを五分しその一を被告惇子の負担とし、その四を被告破産管財人ら、同坂本、同永松、同工藤及び同飯田の連帯負担とする。

一〇  この判決は第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一(原告ら)

1  別紙債権目録(一)記載の原告らが破産会社に対し、同目録金額欄記載の各金額の損害賠償請求債権を破産債権者として有することを確定する。

2  被告坂本、同永松、同工藤、同澤田及び同飯田は各自別紙債権目録(二)記載の番号一ないし三及び五ないし九の原告らに対し、被告永松、同工藤、同澤田及び同飯田は各自同目録記載の番号四の原告に対し、同目録金額欄記載の金員並びにこれに対する昭和五九年二月一九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告坂本と同宣子との間において、本件(一)の不動産につき昭和五八年四月一日なされた贈与(持分四分の一)及び同年同月二八日なされた贈与(持分四分の一)並びに本件(二)の不動産につき同年同月一日なされた贈与(持分三分の一)はいずれもこれを取消す。

4  被告坂本と同久美との間において、本件(一)の不動産につき昭和五八年四月一日になされた贈与(持分四分の一)及び本件(二)の不動産につき同日なされた贈与(持分三分の一)はいずれもこれを取消す。

5  被告坂本と同宗久との間において、本件(一)の不動産につき昭和五八年四月一日なされた贈与(持分四分の一)及び本件(二)の不動産につき同日なされた贈与(持分三分の一)はいずれもこれを取消す。

6  被告宣子は、原告らに対し、本件(一)ないし(三)の登記の抹消登記手続をせよ。

7  被告久美、原告らに対し、本件(四)、(五)の登記の抹消登記手続をせよ。

8  被告宗久は、原告らに対し、本件(六)、(七)の登記の抹消登記手続をせよ。

9  被告永松と同惇子との間において、本件(三)、(四)の各不動産につき昭和五八年四月二四日なされた財産分与はいずれもこれを取消す。

10  原告惇子は、原告らに対し、本件(八)、(九)の登記の抹消登記手続をせよ。

11  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに第二項につき仮執行宣言。

二(被告ら)

請求棄却、訴訟費用原告負担の判決。

第二  当事者の主張

一(請求原因)

1  当事者

(一)被告

(1) 被告破産管財人らは、昭和五八年五月一三日午後一時に当裁判所で破産会社が破産宣告を受けたに伴い選任された者である。

(2)被告坂本、同永松、同工藤及び同澤田は、海外先物取引の受託取次を業とする破産会社の代表取締役もしくは取締役であった者である。

(3)被告飯田は、破産会社の創立者であり、実質的オーナーであった者である。

(4)被告宣子、同久美、同宗久は同坂本の妻子である。

(5)被告惇子は同永松の妻である。

(二)原告ら

原告らは、いずれも破産会社の勧誘によって、同社を介して、海外先物取引を行った者である。

2  破産会社の業務内容とその実態

(1)破産会社は、昭和五六年四月二一日に、外国の商品取引所における上場商品の取引並びに売買及びその媒介等を目的として設立された株式会社である。

(2)しかし、その業務実態は、先物取引の知識経験がないか、極めて乏しい公務員、会社員らを「必ず儲ります」等との甘言、詐言を弄して、香港商品公易所での砂糖、大豆等の先物取引(以下海外先物取引という)に勧誘し、取引委託証拠金名下に金員の預託を受けるものの、本来ならばその全部もしくは大半を香港商品交易所の正会員業者(本件においてはボーデンシー社)に送金しなければならないところ、これをすべて国内の破産会社内に留保した上、取引の仕組価格変動要因等の知識、情報の圧倒的差異に乗じて巧みにかつ強引に顧客を操縦して取引を継続させ、結局手数料名下、損金名下に預託を受けた金員を領得してしまう詐欺的商法なのである。

(3)破産会社は、被告坂本、同永松、同工藤及び同澤田の決定並びに同飯田の指示により、次のとおり原告らと取引を開始して続行し、その取引は次の点で違法であった。

原告ら各人に対する勧誘、取引のしかたについては別紙個別主張の各A欄記載のとおりである。

(い)勧誘の違法性

(イ)原告らが当初破産会社のセールスマンから受けた勧誘の経緯を通覧するとその手口が驚くほど酷似していることにすぐに気付くのであり、これこそ会社が組織的・計画的にセールスマンを教育してきた事実の表れである。

そこに表れている問題点を列挙するならば、

① 無差別かつ強引な電話勧誘

② 顧客の適格性(資産状態、経験・知識、家庭状況、性格等)を全く無視した攻撃的かつ執拗な訪問勧誘

③ 断定的判断の提供(絶対値上がりする)や利益保証

④ 会社や社員の信用性に関する虚偽もしくは著しく誇大な事実の告知

⑤ 取引開始注文の強要、泣き落としないし追認威圧

等を一般的に指摘しうる。

(ロ)さらにより重大な問題点は、勧誘時に本件取引の仕組み、内容さらにはその危険性について、ほとんど説明がされていないということである。

そもそも破産会社のすすめている先物取引は、平たくいえば「相場」であって、当然値段の上下がある。また委託保証金も現物取引の一割前後ですむことから、資金力以上の取引を行うことになる。

さらに、追加保証金制度があるため、資金いっぱいに注文を出していると、相場が予想と反対になった時には顧客は、追加保証金を調達できないと損をしたまま取引の清算を迫られるのである。

すなわち、本件取引は損得いずれにしろきわめてリスクの大きい投機的取引(決して投資ではない)である。

その上、破産会社の行っていた海外の先物取引は、我が国の一般市民にとっては全く必要のない取引であり、また国内商品取引以上に危険性の高い取引である。なぜなら、国内市場でさえその値動きはきわめて複雑な要素がからみあい、百戦錬磨の相場師でさえ常勝は困難とされている。いわんや海外の市場においてはその値動きを予測することは不可能に近い。また仮にある程度予測できるとしても、商品の値動きと共に、外国為替市場(円対ドルの交換比率)の動向も影響してくるのであって、結局商品相場と円相場の両者が的中しない限り利益が出ないのである。

(ろ)会社による顧客出捐金の領得システム

右のとおり、破産会社のセールスマンはとにかく顧客から注文を取り、保証金を出させることに全力を尽くすが、これらの顧客の出捐した保証金名下の金員を、最終的かつ実質的に破産会社が領得するについては次の二つの手法を組合わせ、巧妙に会社に不当な利益を帰属させている。

(イ)いわゆる「向かい玉」形式の会社の自己玉の設定

破産会社は、日々会社が受託した客の注文に対し、会社の名と計算において常に全く正反対の注文を自己玉として香港の取次代理店(ボーデンシー社)に出している。すなわち、各個別の客の注文ごとに反対玉を建てるか、あるいは日々の個別の客のすべての売買注文を会社内部で一旦相殺し、その差の部分に対応する反対注文を出すという形で(前者は全量向かい玉であり、後者はいわゆるハナをとる形の向かい玉)破産会社は香港に注文を通している。このような向かい玉を会社が意図的に行う結果、常に顧客の損益と会社の損益とは正反対の関係に立つ。端的に言えば、客が損をすれば会社は自動的に儲かることになる。したがって会社は、むしろ客に損をさせなければならないのである。

なおこの向かい玉の目的は、後記の通りの顧客操縦と連動して会社の自己玉により利得することであるが、副次的には、顧客から預かった保証金をほとんど会社内に留保し、海外へ送金しなくてもよいという機能も果たす。なぜなら、香港サイドから見れば、日本の破産会社から来る注文はほとんど毎日売買同数であるから、相場がいかに変動しようと日々常に破産会社の内部で値洗い上の損得が相殺されると同じ結果になり、保証金(それは本来清算に至るまでの顧客の履行の担保のためのものである)を要求する直接的理由がないからである。

かくして、会社は保証金を直ちに必要経費に流用しうる道も開かれている。

(ロ)「客殺し」を意図した「顧客操縦」

ところで「向かい玉」そのものは違法ではないとの主張がある。そしてこの主張は「相場の動きは誰にも予測ができない。」→「故に客に向かっても必ずしも会社が儲かるとは言えない。」という理由を基本にしている。

しかし右の前段が仮に正しいとしても論理必然的に「会社が常に儲かる訳ではない。」との結論を導くのは早計である。なぜならば、「相場」そのものが業者のコントロールの及ばないものであるとしても、この「相場」の代わりに「顧客」をコントロールできれば、会社はほとんど常に儲けることができる。そして、破産会社は以下詳述するような方法で実に巧妙に原告らを含む多くの顧客を操縦してきたのである。

まず、客の注文玉が数字的にプラスになっている場合は、会社は客を放ったらかしにしておく。顧客は、はじめから受身であり、例えば香港の取引所の毎日の値動きを、国内にいる顧客が追いかけることは不可能に近い。会社に電話する位しか方法はない。情報面でも客と会社の間には大きな落差がある。そして客が利益が出たから処分してくれと申し入れても、会社は色々の口実を使い処分させない。

例えば、

「もう少し待てばもっと上がる。今処分したら後悔しますよ。まだまだです。」

「担当者が今おりません。」

「香港で反対玉が出ないので、今処分できません。」

「もっと上がりますから、あと一〇〇万円追加で投資しなさい。」

等々である。

こうして時期を待ち、相場が反対になったらいよいよ会社の出番である。顧客に電話を入れる。そして次のどちらかのことを言う。

第一は追加保証金の要求である。これは破産会社の取引委託契約書の終わりの方に小さく書いてある。これが業者の武器の一つである。顧客は勧誘の当初はこの追加保証金の話を聞いていない(セールスマンは儲かる話しかしないから、値下がりした場合の追加保証金についても説明していない。)ので皆怒るが、会社は「追証を入れないなら会社で清算します。損が出て今までの保証金は戻りませんよ。」と半ば強迫的に開き直る。顧客としても、せっかくのお金が零になるより、一旦はお金を追加し相場が回復したら両方取戻せるという話に乗りやすいのである。

第二の方法は、「両建て」の要求である。これは、相場が反対にいった時、顧客の既存の注文と正反対の注文を顧客に新しく注文させる方法である。「このままでは相場がもっと下がり、損も大きくなる。だから反対玉を建てて損を止めましょう。保険をかけるのです。」と会社は説明し、新たな注文につき当然保証金を要求する。しかしこの説明も欺罔的なものである。両建てにしても既発生の損が一応固定されるという消極的な機能しかない。両方の注文を別々の時期(しかもいつか限月が来る。)に、相場の上下動を誤りなくとらえて清算してはじめて利益が出る可能性があるにすぎない。その可能性はプロでも少ないのである。

かくして、相場が下がるといずれにしろ顧客は新しく資金を出捐するよう仕向けられる。そして会社に巧みに操縦され、結局損失をひろげるだけである。原告らの取引の経過が、右の事情を何よりも雄弁に物語っている。

(4)破産会社は、昭和五八年四月二八日、業績が悪化し債務超過に陥ったとして大阪地方裁判所に自己破産の申立をし、同年五月一三日午後一時に破産宣告を受けるに至った。

3  給付訴訟

(一)被告坂本、同永松、同工藤、同澤田及び同飯田は共謀して前記2記載の詐欺的商法を案出し破産会社を設立しそれぞれ取締役等に就任して、その営業を遂行した。

特に、被告澤田の責任について述べる。

被告澤田は、別会社での長年の取締役経験により、代表取締役が業務全般を掌握してこれを指揮し、他の取締役の業務遂行を指導監督しうる地位にあり、またそうすべき職責であることを知悉しており、常勤はしないものの共同代表者たる被告坂本や他の取締役を監督することが自己の役割であることを認識して、破産会社の代表取締役に就任し、月額金二〇ないし三〇万円の定額報酬を受領して、昭和五六年四月から翌五七年六月まで代表取締役であり続けたものである。その間、破産会社が、被告坂本を先頭に会社ぐるみで本件不法行為を敢行し、原告らを含む多数の委託者に多大の損害を与えたことは既に述べた通りである。そして、昭和五六年から同五七年にかけての頃は、既に海外先物取引による一般市民の被害が発生して、その被害申告が通産省、農水省等へ多数寄せられ、先物取引関係者(公設市場関係者、監督官庁)はもとより、広く一般世論にも知られはじめ、社会問題となっていた時期であった。

従って、被告澤田は破産会社が被害を発生させている海外先物取引に一般市民を勧誘、受託することを業とする会社であり、会社ぐるみで、本件のような組織的不法行為を敢行する会社であることを十分に認識しこれを認容して、破産会社の代表取締役に就任し、代表取締役の地位にありつづけ、実務を取り仕切る被告坂本らの業務遂行に承認を与え、これを容易ならしめていたのであって、故意による不法行為責任を免れない。

もしこの実態を十分に認識していたとまでは言えずとも、代表取締役としての権限を行使すれば容易にこれを認識し得たことは明らかであって、漫然とこれを看過し、実務を取り仕切る被告坂本らの業務遂行に承認を与え、同被告らによる会社ぐるみの組織的不法行為を容易ならしめていたのであるから、少なくとも重大な過失があり、やはり不法行為責任は免れない。

また、被告澤田は破産会社が本件不法行為を敢行している実態を十分に認識していたのであるから、会社の代表取締役としては商法の予定する正常な営業活動とすべくこれを是正する措置を講ずる義務があったと言うべきである。にもかかわらず、敢えてこれを果たさず、組織的不法行為を認容し、容易ならしめたのであって、代表取締役の職務を行うにつき悪意があったと言わざるを得ない。もし、この実態を十分に認識していたとまでは言えなくとも、代表取締役の権限を行使すれば容易にこれを認識し得たことは明らかである。にもかかわらず、漫然とこれを看過し被告坂本らの違法な業務遂行に承認を与え、これを容易ならしめたのであるから、少なくとも代表取締役の職務を行うにつき、重大な過失があったものである。

特に被告飯田の責任について以下述べる。

被告飯田は、破産会社の創立者でかつ実質的なオーナーであったものであり、前記2記載の違法な会社ぐるみの金員収奪システムの企画・立案者であり、さらにいえば実質的な主謀者ともいうべき立場にあった者である。被告飯田の存在をぬきにしては、そもそも破産会社の創設及び違法な勧誘活動の全体がありえなかったのである。

ところで問題は、被告飯田の責任が昭和五六年九月下旬以降に破産会社のセールスマンから勧誘を受け取引を開始した人々の被害にまで及ぶかという点であろう。この点についてはさらに二つの時期に区分する必要がある。その第一は、昭和五六年九月下旬から翌五七年二月上旬までの期間で、この間は被告飯田と被告坂本らは会社の支配権をめぐる争いをしていた時期である。その二は、昭和五七年二月上旬以降の時期であり、ここにおいては被告飯田は破産会社との関係を清算し、会社の業務執行に全く関与しなくなったようにみられるのである。

しかし右の第一の時期についても被告飯田の責任は免れない。なぜならば、この時期における紛争は、詐欺商法を行っていた破産会社の経営支配権をめぐる争いであり、この争いの中でも被告飯田は、被告澤田を自己のダミーとして、会社の支配権を回復すべく争っていたのである。そしてこの間の業務執行は従前と全く同じような形で、なお行われていたのであり、飯田と現場責任者としての坂本らが対立していたといっても、被告飯田が作出した金員の不当な利得システムとしての会社の日常業務には影響を与えるものではなく、特に勧誘方法や追加注文のとりかたが変化したということもないのである。したがって、この第一の時期についてはその以前と全く同じ形で被告飯田は責任を負わねばならない。

さて問題は、昭和五七年二月上旬以降の第二の時期における被告飯田の責任についてである。被告飯田は、自己のイニシアティブの下で違法活動を日常的に行うきわめて危険かつ反社会的な会社を作出し、現に被害を発生せしめてきたのであるが、このように一旦きわめて危険な金員収奪システムを作り出した人間は、仮に自己がこのようなシステムの支配権を失った後においても、さらに被害を拡大させないために、このようなシステム自身を破壊するか、あるいは危険性を減少させる方策をとるべき一定の作為義務があると考えられるのである。別の言い方をすると、詐欺会社システム創設という「先行行為」により、被告飯田は単に何もしないで、このシステムから離脱するだけでは責任を免れない状況に置かれていたのである。彼は、自分が抜けるだけでは不十分で、より積極的にこのようなシステムを廃止するかあるいは加害の危険性の少ないものに変えるという作為義務を負っていたのである。さらにこの作為義務は、先行行為の重大性、危険度の高さと、被告飯田は右のような作為をなしうる地位、立場、影響力があったという作為可能性の両方によって根拠づけられるのである。

通常の場合であれば、一旦離脱すればその後まで責任を問うことは酷なことであろう。しかし被告飯田のワンマンぶりや、相手はすべて自分の部下であった者達であることを考えれば、飯田にそこまでの作為義務を科して決して酷ではない。被告飯田は、坂本らと和解した際に、「こんな客殺しをするような会社は止めてしまえ。」と言う義務があった。そして会社をそのままに残していけば必ず被害が拡大することも飯田は十分予見できたと思われる。

さらに、この昭和五七年二月以降も、会社の業務執行体制には何等の変化もなく、社名のみが、かろうじて同年七月に変更されたに止まるのである。

以上のような観点から、原告としては被告飯田の責任は、破産会社が存続し続けた全期間に及ぶものと考える。

(二)破産会社は、別紙個別主張の各A欄記載の「取引期間」の初め頃に原告らに対し、前記の違法不当な勧誘を行なって、原告らを香港商品交易所での先物取引に引込み個別主張の各A欄記載の「取引期間」内に、委託証拠金等名下に原告らから多額の金員の交付を受けこれを領得した。

(三)その結果、原告らは別表(その1)「(e)実損害」欄記載金員相当の損害を蒙るに至った。その後同表「(f)破産配当」欄記載の配当があったので、最終的には同表「(g)差引実損害」欄記載の損害が生じたこととなる。

被告らは、その損害を任意に弁償しないので、やむなく原告らは、原告訴訟代理人に依頼して、本件訴訟を提起した。本件の如き不法行為事案では、法律専門家たる弁護士への依頼が不可欠であり、その着手金、報酬は同表「(g)差引実損害」欄記載金員の一割が相当である。

(四)よって、原告濱岡國彦、同佐々木康夫を除く原告らは、被告飯田、同坂本、同永松、同工藤、同澤田に対し、原告濱岡は、被告飯田、同永松、同工藤、同澤田に対し、原告佐々木は、被告飯田、同永松、同澤田に対し、民法七〇九条、同七一九条に基づき、さらに被告澤田につき商法二六六条の三に基づき、実損害額及び弁護士費用相当額の損害賠償請求権を有している。

(五)原告佐々木は、被告坂本、同工藤との間で、昭和五八年三月二三日付和解契約を締結したので、同契約に基づき同被告らに対し、弁済及び破産配当を差し引いた別表(その1)「(g)差引実損害」欄記載の金員及びこれに対する一割相当の弁護士費用の支払を求める請求権を有する。

4  破産債権確定訴訟

破産会社は、被告坂本、同永松、同工藤及び同澤田の決定並びに同飯田の指示によりその業務を遂行してこれら被告らと共同して、前記2記載のとおり違法な取引をなし、原告らに対し前記3(三)記載のとおり損害を与えたものである。

別紙債権目録(一)記載の原告らは債権調査期日において、破産管財人らに対し、同目録記載の金額につき、右の共同不法行為による損害賠償請求権を有するとして債権届出をしたが、破産管財人らにより異議を述べられた。

5  詐害行為取消訴訟

(一)被告坂本は、本件(一)(二)の不動産を所有していた。

ところが、本件(二)の不動産については、破産会社倒産の直前の昭和五八年四月一日に被告宣子、同久美、同宗久に各三分の一ずつ(計全部)を贈与し、本件(一)の不動産についても同日に被告宣子、同久美、同宗久に各四分の一ずつ(計四分の三)を贈与した。同年四月一五日受付をもってその旨所有権移転登記手続をした(被告宣子名義は本件(一)、(二)、同久美名義は本件(四)、(五)、同宗久名義は本件(六)、(七)の各登記)。さらに、同年四月二八日に被告宣子と協議離婚した旨を同年五月四日に届出、本件(一)の不動産の残り四分の一の持分も、同年四月二八日財産分与し、同年七月二五日受付をもってその旨所有権移転登記手続をした(本件(三)の登記)。

(二)被告永松は、本件(三)(四)の不動産を所有していた。

ところが、右不動産を破産会社倒産直前の昭和五八年四月二四日に被告惇子と離婚したとして、同日付で財産分与をし、同年四月二五日受付をもって、その旨所有権移転登記手続をした(本件(八)、(九)の登記)。

(三)(一)(二)記載の贈与、財産分与、及びそれに基づく所有権移転登記は、破産会社の倒産が決定的になって、急拠、債権者からの追及を免れるためになされたものであり、右被告らは原告ら債権者を害することを知っていたものである。

(四)よって、原告らは右被告らに対し、民法四二四条に基づいて、その詐害行為の取消し及び右各所有権移転登記の抹消登記手続を求める。

6  結語

以上の次第で、原告らは被告らに対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

二(請求原因に対する認否)

1(被告破産管財人ら)

請求原因1(一)(1)(2)の各事実は認め、同1(一)(3)(4)(5)、(二)の各事実は不知。

同2(1)(4)の各事実は認め、同(2)(3)の各事実は不知(別紙個別主張各A欄記載の事実は不知)。

同3、5の各事実は不知。

同4の事実中前段の事実は不知、後段の事実は認める。

同6の主張は争う。

2(被告坂本、同永松、同工藤及び同惇子)

請求原因1の事実は認める。

同2(1)、(4)の各事実は認め、同2(2)、(3)の各事実は否認する(但し、被告坂本、同永松及び同工藤の別紙個別主張各A欄記載の事実に対する認否は同別紙各B欄記載のとおりである。被告惇子は原告の個別主張の事実については不知である)。

同3の(一)、(二)の各事実は否認し、同3(三)の事実は不知、同3(四)の主張は争う。同3(五)の事実中和解の事実は認め、その余の事実は不知。

同4の事実中前段の事実は否認し、後段の事実は認める。

同5(一)、(二)の各事実は認め、同5(三)の事実は否認し、同5(四)、6の各主張は争う。

(被告坂本、同永松及び同工藤の主張)

(一)破産会社には組織的違法性がないこと

原告らは破産会社に組織的違法性があった旨主張するが、そのようなことはない。以下、その理由を述べる。

(1)破産会社の営業社員の教育について

まず、破産会社の設立当初における営業社員は、そのほとんどが国内公設の商品取引員であったゼネラル貿易株式会社、近畿ゼネラル株式会社などゼネラルグループから出向してきたもので、登録外務員の資格を有していたものである。しかも、破産会社設立後新規に採用した営業社員に対しては、国内の商品取引員の場合と同様、「登録外務員必携」と題する一連のテキストを使用して教育してきたもので、登録外務員の資格を有するものと同程度の知識を有するものばかりであった。

従って、営業社員の勧誘形態も国内公設の商品取引員の営業社員の形態と同様のもので、異常な勧誘はなかったと推測できる。

(2)過度な歩合給がなかったこと

原告らが主張する豊田商事事件においては、その営業社員が相当高額の歩合給を得ており、それがために異常な勧誘に走ったとされている。しかし、破産会社においては、豊田商事のよう過度な歩合給制度はない。破産会社における歩合給制度は、建玉の枚数によって、A・B・Cというランクに分かれ、その差も月額五万円以内のものであった。

従って、破産会社が営業社員に過度な歩合給を与えることによって、異常な勧誘を行なわせるようなシステムを採用していることはなく、そのことだけでも破産会社には組織的違法性がなかったといえる。

(3)法規制がないことで逆に注意を喚起していたこと

言うまでもなく香港商品取引所における商品先物取引について日本国内でその受託業務を行なう場合は、商品取引法等の規制は及ばない。しかし、破産会社の場合は、法規制が及ばず、紛議調停制度もないため、逆にトラブルを生じないよう注意を喚起していたものである。その証左として、原告らを含む委託者の中にはいわゆる不適格者である主婦や老人がいないことは勿論、もともと不適格者を勧誘の対象とはしなかったことがあげられる。

(4)向かい玉はいわゆる「客殺しの手段」にはなり得ないこと。

原告らは、「客殺しを意図した顧客操縦」と称してあたかも破産会社が顧客を操縦することによって自己玉による利益を得ていた旨主張する。しかし、これは誤りである。破産会社にとってはどの委託者を損させれば自己玉が儲るかそもそも不明であり、顧客操縦など到底できないものである。そもそも破産会社が倒産に至った主たる原因として破産会社の自己玉による損失が挙げられていること自体、向かい玉はいわゆる「客殺しの手段」にはなり得ないことを雄弁に物語っているのである。

(5)破産会社の営業態度

破産会社は、国内公設の商品取引員であった近畿ゼネラルなどゼネラルグループによって設立されたものであり、破産会社とゼネラルグループとの資本提携関係がなくなった後も、その営業方法には変更がなかったものである。また、海外先物取引業務の規制強化を懸念し昭和五六年末頃には国内取引の免許を持つ和歌山取引株式会社の買収を行ない、健全なる経営に務めようと努力してきたものである。

また、破産会社は、香港商品取引所の準会員の資格も有し、同取引所の正会員であるボーデンシーを通じて、実際に取引を行なっていたものである。

(6)破産に至った理由

破産会社は、正当な営業を継続してきたものであるが、マスコミによって海外先物取引が投機性の高い危険な取引であるとのキャンペーンがなされたため、一般顧客からのキャンセルが続出し、新規顧客の開拓が困難になったこと、政府の意向が海外先物取引業者をつぶすことにあったため社員の士気が低下したこともあって破産宣告決定を受けるに至ったものである。

(7)なお、破産会社は原告ら以外に訴訟事件を提起されたことはなく、他の顧客は納得しているものである。

よって、破産会社には組織的違法性はない。

(二)被告坂本、同永松及び同工藤の個人責任について

被告坂本、同永松及び同工藤は、破産会社設立当初ゼネラルグループの一員である被告坂本についてはゼネラル貿易株式会社、同永松及び同工藤については近畿ゼネラル貿易株式会社からの出向社員であったに過ぎず、既にゼネラルグループによって活動が可能になっていた破産会社に入社したものに過ぎないものである。また、破産会社とゼネラルグループとの資本提携関係がなくなった後も、その業務形態や営業方法には変更がなかったものである。

このように被告坂本、同永松及び同工藤は、国内公設の商品取引員の社員であったもので、国内の先物取引の場合と変わらないような形態で業務を遂行してきたものと認識し、その認識に過失はないから、不法行為責任はない。

3(被告澤田、同飯田)

請求原因1、(一)、(3)の事実は否認し、同1、(一)、(2)の事実中被告澤田関係の事実は認めるがその余の事実は不知、同1、(一)、(1)、(4)、(5)、(二)の各事実は不知。

同2、(1)、(4)の各事実は認め、同2、(2)、(3)の各事実は否認する(但し、別紙個別主張のA欄記載の事実は不知)。

同3の事実は否認する。

同4、5の各事実は不知。

同6の主張は争う。

(被告澤田、同飯田の主張)

(一)被告澤田について

被告澤田は破産会社設立当初から昭和五七年に代表取締役を辞任するまでの間、主として心臓病のため検査、入退院、手術を繰り返し、生死の境を彷徨う状態であった。そのため、同被告は破産会社の営業内容を知るいとまもなく、また報告を受けたこともなかったので、破産会社の営業の実態を認識していたとはいえず、同被告としては他の取締役の監督、従業員の指導など不可能な状態であった。

(二)被告飯田について

被告飯田は被告坂本がかつての部下であったため、破産会社の設立のため出資、貸し付の形で経済的援助を与えた。しかし、これは被告飯田の代表する他の法人からなされたものであって、同被告個人によるものではない。

被告飯田が破産会社の設立に際して社員の人事等に関与したのは被告坂本からの要求によるものである。

かえって、被告飯田が破産会社または被告坂本らに対し昭和五六年九月頃民事、刑事の責任追及のための法的手続をなすことを余儀なくされたことは、被告飯田に破産会社に対する支配力がなかった証左ともなる。

さらに、昭和五七年二月の被告飯田と破産会社または被告坂本らとの和解が成立した後の事項についても責任があるというのは責任原理に反する。

以上の理由から被告飯田は破産会社の行為について責任を負う立場にない。

4(被告宣子、同久美、同宗久)

請求原因1の事実中(一)(2)の事実中坂本が破産会社の代表取締役であった事実及び同1(一)(4)の事実は認めるが、その余の事実は不知。

同2、3、4の各事実は不知(別紙個別主張A欄記載の事実は不知)。

同5(一)の事実中、贈与の日が破産会社倒産の直前であったことは不知、その余は認める。

同5(二)の事実は不知。

同5(三)(四)、6の事実ないし主張は否認ないし争う。

三 抗弁

(被告宣子、同久美、同宗久、及び同惇子関係)

1  請求原因各記載の贈与を受けるについて右被告らはいずれも債権者を害することは知らなかった。

2  被告宣子が同俊文と正式に離婚したのは昭和五八年四月二八日であるが、両者は、それよりずっと以前から夫婦関係がうまくいかず昭和五六年四月頃被告俊文が仕事上大阪へ転居した際同宣子は同俊文と別居し同久美及び同宗久は同宣子と暮すことになったものである。

3  被告宣子が自らあるいは被告久美及び同宗久のため住いである本件(一)及び(二)の不動産の所有権を被告坂本から贈与ないし財産分与により受けたのは、別居状態を離婚という形ではっきり解消し被告宣子が右二人の子を養育していくことになったからである。

4  被告惇子は離婚後も同永松と同居しているが、それは子供の養育費の支給を受けるため、やむなく同居しているものに過ぎない。離婚当時の被告惇子の離婚の決意は固く、しかも、財産分与当時被告永松が訴え提起されることについては全く想像もしていないことであり、詐害の認識は全くない。

(被告坂本、同永松、同工藤及び同惇子関係)

5  過失相殺

仮に、原告らの請求が認められるとしても、原告らについても海外先物取引に関して十分認識研究せずに破産会社との取引に応じたことに過失があるので、過失相殺の主張をする。

四(抗弁に対する認否)

全て争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一前提事実

〈証拠〉によると、被告破産管財人らは、昭和五八年五月一三日午後一時に当裁判所で破産会社が破産宣告を受けたに伴い選任された者であること、被告永松及び同工藤は、海外先物取引の受託取次を業とする破産会社の取締役、同坂本及び同澤田はその代表取締役であった者であること、被告宣子は後記認定のとおり昭和五八年四月二八日協議離婚届をなすまでは形式、実質ともに同坂本の妻であった者であり、同久美、同宗久はその間の子であること、被告惇子は同年同月二四日協議離婚届をなすまでは形式、実質ともに同永松の妻であった者であること、が認められる。

破産会社は、昭和五六年四月二一日に、外国の商品取引所における上場商品の取引並びに売買及びその媒介等を目的として設立された株式会社であること、さらに、被告飯田は、破産会社の創立者であり、実質的オーナーであった者であること、原告らは、いずれも破産会社の勧誘によって、同社を介して、海外先物取引を行った者であることは後記認定のとおりである。

二違法性について検討する。

〈証拠〉を総合すると、別紙個別主張の各A欄記載のとおりの事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実に基づいて考えると、破産会社の従業員の原告らに対する勧誘の方法及び取引の進め方には次のような共通な点を指摘することができる。

なるほど原告らは、主婦や年金生活者といった明白な商品先物取引の不適格者ではなく、司法書士、郵便局長、営林署員等の三三才以上で、多くは五〇代以上の男性であり、社会的には一応の地位にある者であるが、純朴な地方に住み、相場性のある先物取引、株の取引などには関心もなくその経験は皆無又はそれに近く、その取引開始の意思もなかった者である。特に、原告天野は職員三人の小規模の郵便局の局長であり公金の出納取扱者である。予め電話をかけて破産会社と従業員の氏名を名乗るものの、勧誘訪問の時間が勤務中であったり、職場における執務中であったり、甚だしいものは、電話にて会議中を急用であるとして呼び出して建玉等の取引の交渉を余儀なくさせた。又、原告らからの手仕舞の要求に容易に応じることがなかった。そして勧誘に際しては海外先物取引の相場性等の説明がなされていない。まして、後記の香港の商品取引所の特殊性についての説明はなされていない。右のように、原告らは何れも勧誘に止むなく応じた者であり先物取引の経験もなくその取引継続の意思もなく、自らの相場観を持ち合わせていなかったので、自ずと破産会社の従業員がその相場観を述べることになった。又、取引開始に際しては倍にしてやるなどの利益による誘導もみられる。そして、しばしば破産会社の外務員、担当者が交代している。

以上の点は、海外先物取引法、同法施行令、同法施行に関する通達、商品取引所法、同施行規則、これを受けた取引所定款、同定款に基づき全国の商品取引所が定めた取引所指示事項、さらにこれを受けた取引員の自主的申合わせとしての各種協定等に定められているものであり、これら規制が行政法令又はこれに基づく定めであり、かつ本件取引時以後に制定された法令もあるが、これらは実質的違法性の現れとして、民法上の不法行為の違法性判断の有力な基準を提供するものといわなければならない。

商品取引所制度が社会的に必要であることは否定できないとしても、その投機性、相場性は極めて高く、商品の価格とその形成に関心を持ち、知識と経験を持っているか又はこれを持つことを欲している者でしか正常の取引が期待できないことは公知の事実である。

そして、〈証拠〉を総合すると、特に香港の商品取引所はその規模が小さく、建玉が偏って相場の乱高下を来すのでこれを回避するため、商品取引受託業者が自己玉を建てる所謂向かい玉を建てる結果となり、そのため商品取引受託業者が顧客と利害相反する立場となり右業者の利益追求が顧客の損を惹起させることとなったが、本件においても同様の状態となり破産会社は大量の向かい玉を建てる結果となったこと、さらに破産会社においては毎年度受託手数料が営業費用を賄うに不足していたこと、又海外先物取引一般に通有する弊害ではあるが、先物取引の相場が為替相場にも影響されるため相場の見通しをたてることが国内先物取引以上に困難となることが認められ、この認定に反する証拠はない。

右の向かい玉は過当なものは前掲の行政法令の禁止するところである。とはいえ、これはそれ自体直ちに不法行為となるとはいえず、商品取引受託業者が自己の利益の追求に走りその専門的知識経験を利用して無知無経験の顧客にあえて損害を与えるために右向かい玉を建てる行為をしたときはそれ自体不法行為を構成するというべきであるが、本件においてはその事実を認めるに足りる証拠がない。しかし、本件において前記認定のとおり、そこまでに至らなくても、右のような向かい玉という不公正な結果をもたらす可能性を含む取引に前記指摘した諸特徴を有する方法で海外先物取引に勧誘し、かつこれを継続せしめた行為は違法の誹りを免れない。

なるほど、〈証拠〉によると、破産会社は向い玉と目される自己玉により昭和五七年四月から同五八年三月までの第二期において多額の損失を出していることが認められるけれども、これが原告らに利益をもたらしたとはいえず、かえって原告らは後記認定のとおり多額の損害を受けているのであるから、右の事実はただちに右の違法性を認める妨げとなるとはいえない。

さらに、前記認定の事実、〈証拠〉を総合すると、破産会社の従業員は原告らに対し取引上の損が大きくなると遅かれ早かれ両建て玉を勧め、事情に暗い殆どの原告らは損を拡大しないために両建て玉を建てるという言を信じてこれに応じたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。この行為も同時両建、常時両建、因果玉の放置等は前掲の行政法令の趣旨にそった取引所の定款の禁止するところであっても、それ自体直ちに不法行為となるとはいえないが、商品取引所受託業者が自己の専門的知識経験を利用して無知無経験の顧客に対し損失に目を覆わせて建玉を建てさせ不必要に手数料を払わせもって損害を与えるために右両建て玉を建てる行為をさせたときはそれ自体不法行為を構成するというべきであるが、本件においてはその事実を認めるに足りる証拠がない。しかし、本件において、前記認定のとおり、そこまでに至らなくても、無知無経験で相場の見通しをたてる能力も意欲も持ち合わせない顧客に対し右のような両建て玉を建てさせ、前記指摘した諸特徴を有する方法でこのような両建玉を建てることを余儀なくさせられる海外先物取引に勧誘し、かつこれを継続せしめた行為は違法であるといわざるをえない。

三責任について検討する。

〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

被告飯田は、昭和四六年四月所謂ゼネラルグループの前身である朝日物産株式会社に入社後同四八年六月商号変更後のゼネラル貿易株式会社の専務取締役に就任し、同四九年六月には同社の、同五一年三月には近畿ゼネラル貿易株式会社の、同五二年一月にはゼネラル産業株式会社の代表取締役に順次就任した。その後同五三年四月ゼネラル貿易株式会社の代表取締役副社長に就任し、同五六年一月ゼネラル商事株式会社の代表取締役に就任した。被告飯田は、このようにして、昭和五六年四月頃には所謂ゼネラルグループの実質上の統率者としての地位を確立していた。このゼネラルグループは主として国内の商品先物取引の受託等を業とする会社であるが、本件の香港商品取引所が昭和五二年に開設され、同五四年頃から海外の商品取引所が増えはじめてきたことから、被告飯田は商品先物取引の国際化を企図し、昭和五六年四月頃に至ってゼネラル貿易株式会社をアメリカの証券商品取引会社であるシエアソン・ローブ・ローズ社と提携させて、シエアソンゼネラル株式会社を設立すると同時に破産会社を設立した。そして、当時ゼネラル貿易株式会社に社長室長として勤務していた被告坂本を破産会社の取締役専務、近畿ゼネラル貿易株式会社の取締役管理本部長として勤務していた被告永松を破産会社の取締役常務、同社に管理副部長として勤務していた被告工藤を破産会社の取締役常務に就任を命じた。さらに、被告飯田は自己の姉婿に当たる被告澤田に破産会社の代表取締役社長に就任してもらった。当時被告澤田は心臓病、肝臓病等のため入院、退院を重ねており、もともと同被告は有機化学専攻で技術畑の者であって、商品先物取引等には全くの素人であって、右就任の依頼も実際の仕事は被告坂本が取り仕切るので被告飯田に代わり監督する程度であるから引受てくれとの被告飯田の頼みによって右就任を引き受けた者であり、破産会社の株式五万株の内三万六〇〇〇株の名義人であるがその出資金一八〇〇万円は被告飯田から被告坂本の退職金、貸付金名義で被告坂本に渡された二五〇〇万円から支払われており、破産会社の業務執行の面でも取締役会を招集することもせず、これに出席したこともなかった。昭和五六年九月の被告飯田と被告坂本ら破産会社役員側との紛争の際にも、破産会社に赴いたり、これに伴う被告坂本に対する職務執行停止の仮処分の申請手続き、破産会社に対する新株発行無効確認請求訴訟の手続きなどをしたが、いずれも被告飯田の依頼によるものであった。被告坂本、同永松及び同工藤は被告飯田の意向を受けて破産会社の業務を実際にも遂行した。被告飯田は破産会社発足後もその業務執行にくちばしを入れ、毎日または半月毎の業務報告をさせ、しばしば重要な会議にも出席して意見を述べた。被告飯田は破産会社が増資をしたことを知り、これに伴い金銭の管理にも疑念をもつようになり、昭和五六年九月一六日破産会社に架電して金銭の管理状況を問擬し、翌日破産会社に赴き被告坂本らから事情を聴取しようとしたが、同被告からもはや破産会社の従業員の全員から被告坂本の信任をとりつけていて、被告飯田の指示に従う意思のない旨述べてこれを拒否したため、奏効せず、その後再び被告澤田らを伴って破産会社を訪れ社長である澤田の命のもとに帳簿等の調査をなし、前記のとおりの仮処分等の訴訟を提起した。被告飯田と被告坂本ら破産会社側との紛争は昭和五七年二月まで続きその頃両者和解が成立し、被告飯田及び同澤田は破産会社の経営から手をひき、被告澤田は株式を被告坂本ら破産会社側に譲渡し、破産会社は同被告に退職金一〇〇〇万円を支払う旨の合意が成立した。右紛争の原因が破産会社の勧誘の方法等本件において問題となっている点ではなかったので、その紛争が解決し被告飯田が去ったとしても、前記認定の態様の破産会社の業務は従前と変わりなく継続され、あえて同被告においてこれを不当として修正するよう求めたこともなかった。そして、破産会社の原告らに対する勧誘、取引は支店長、課長、副部長、係長、主任、副長以下の従業員合計一八人によってなされており、期間は一年八月に及び、従業員の一部の者の一時の跳ね上がりの行為とは到底いえない。そして、破産会社の従業員が前記のとおり執拗に勧誘しなければ取引を開始する人は少なかったであろうし、海外先物取引特に香港商品取引所における先物取引の前記の危険性について説明をしていたら、勧誘に乗る人は稀であったろう。さらに、取引終了の意思を尊重していたなら、予想外の危険性に気づき取引をやめる人が続出したであろう。このように、破産会社の実際に業とした香港商品取引所における先物取引の受託業務は一歩誤ると社会にとって危険な業務となりかねない業務であった。

以上の事実が認められ、被告飯田本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲証拠に照らして採用しえず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

被告飯田本人尋問の結果中には、破産会社設立の動機が被告飯田の商品先物取引の国際化という新企画によるのではなく、被告坂本を当時勤務していたゼネラル貿易株式会社から放逐する好機として被告坂本の強い意向に従ったまでである、という供述があるが、前掲証拠によると被告飯田は破産会社の金銭保管、増資について積極的に干渉するなど放逐した者に経営させている会社に対する対応というには理解に苦しむ行動を示しており、仮に被告飯田が内心にそのような意向を持っていたとしても、それは一つの動機に過ぎず、同被告は前記認定のより積極的な動機も持ち合わせていたものと認めざるをえない。

右認定の事実及び前記一、二記載の事実を併せ、これに基づいて考える。

破産会社は前記のような相場予測が困難である海外先物取引、特に小規模で相場の乱高下が甚だしい香港商品取引所の先物取引の受託を専らとしていたので、特に顧客の適格性、勧誘に際しての右商品取引の特徴に関する説明、取引の継続に関する顧客の意思の尊重など細心の配慮が必要であったのであり、反面、これを放置すれば社会にとって危険な業務を行う会社となり兼ねない状況にあったのであって、その営業の方針を決定する取締役その他これに関与する者は従業員の業務の実行にあたり右の配慮が遺憾なくなされているかについて常時監督すべき責任を負うことはいうまでもない。本件において、前記のとおり従業員の違法行為と目される勧誘、取引継続に関する行為が一般的に行われたのであるから、特段の事情がない限りその監督を怠った不法行為責任を免れないものというべきである。

被告飯田は破産会社の実質上の支配者としてその業務を監督すべき立場にあった者というべく、そして昭和五七年二月の前記紛争の解決後も何らの監督強化、業務変更などの是正措置をとることもなかったのであり、前記認定のとおり原告らの取引はその後遅くとも一年二か月後には終了しているのであるから、被告飯田の破産会社設立、その後昭和五七年二月までの破産会社の業務及びその継続についての監督の不作為は本件損害と相当因果関係にあるものというべきである。さらに、被告坂本、同永松及び同工藤が破産会社の前記不法行為について責任を負うべきであることはいうまでもない。

なるほど、弁論の全趣旨によると、破産会社と取引した顧客は多数にのぼるが、右取引により本件同様の不法行為があるとして提訴しているのは原告ら以外にないことが認められるけれども、少なくとも本件の原告らが前記認定の方法により勧誘をうけ、取引を継続せしめられ、このことにより後記認定のとおりに損害を受けたこと、そして被告坂本、同永松、同工藤及び同飯田がこれを阻止しなかったこと自体が問題である。したがって、被害を訴えている者が本件原告らに限られるからといって、本件不法行為責任を免れることはできない。

しかしながら、被告澤田は被告飯田の指図に従って代表取締役社長に就任し、その後何らの行為もなすべき立場になかった者であるから、同被告は前記不法行為の責任を負担しないし、かつ商法二六六条の三所定の責任の要件である悪意又は重大な過失を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

四損害について検討する。

以上認定の事実によると、破産会社、被告坂本、同永松、同工藤、同飯田の原告らに対する前記不法行為による損害は、破産会社の従業員らが原告らに対して勧誘し、取引を継続するに際して、原告らから受領した金額からすでに返還している金額を控除した金額であると認めるべきところ、前記二認定の事実によると、それらの金額は別表(その2)(b)ないし(e)欄記載の金額であると認められ、これに反する証拠はない。

そして、同表(f)欄記載の金額の破産配当を受けたことは原告らにおいて自陳するところであるので、これを右損害額から差し引くと同表(g)欄記載の金額となる。

弁論の全趣旨によると、本訴の提起、追行には弁護士に依頼する必要があるところ、これに要する費用のうち、本件不法行為と相当因果関係の範囲内にある金額は同表(g)欄記載の金額の一割が相当であると認められる。それゆえ、これを加えた金額が原告らが本訴において請求できる全損害額というべく、その額は同表(h)欄記載の金額となり、これがすなわち別紙債権目録(三)記載の金額である。

なお、以上認定の事実によると、原告濱岡の損害額は別表(その2)注①記載のとおりに認められ、又弁論の全趣旨によると、原告佐々木の損害額は同表注②記載のとおりに解せざるをえない。

さらに、以上の事実に基づいて考えると、原告らに対し過失相殺を認めるべき理由を見出しがたい。

五給付訴訟について

以上認定の事実によると、被告坂本、同永松、同工藤及び同飯田は各自別紙債権目録(三)記載の番号一ないし三及び五ないし九の原告らに対し、被告永松、同工藤、及び同飯田は各自同目録記載の番号四の原告に対し、同目録金額欄記載の金員並びにこれに対する不法行為の日の後日である昭和五九年二月一九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による金員を支払うべき義務があるものというべく、被告澤田は何らの義務もないものというべきである。

六破産債権確定訴訟について

以上認定の事実によると、破産会社も被告坂本、同永松、同工藤及び同飯田と同様、原告らに対し損害賠償の義務を負うものと認められるところ、別紙債権目録(一)記載の原告らは破産手続の債権調査期日において、破産会社に対し同目録金額欄記載の各金額の損害賠償請求債権を有するとして届け出た(同目録金額欄記載の各金額は当初届け出た金額を減額したもの)ことが認められ、その金額は右認定の損害額の内金額であることは明らかであるので、同目録記載の原告らは、同原告らが破産会社に対し、同目録金額欄記載の各金額の損害賠償請求債権を破産債権者として有することを確定する権利を有するものというべきである。

七詐害行為取消訴訟について

1  被告宣子、同久美、同宗久関係

請求原因5(一)の事実中、贈与の日が破産会社倒産の直前であることを除く事実は当事者間に争いがなく、以上認定の事実によると贈与の日が破産会社破産申立日である昭和五八年四月二八日の直前であることが認められ、被告宣子が被告坂本の妻であったこと、同久美、同宗久がその間の子であることは前記認定のとおりである。

〈証拠〉を総合すると、被告坂本と同宣子とは昭和四五年三月一〇日に結婚し、その間に同久美、同宗久をもうけたが、昭和五四年頃から夫婦仲が悪くなり、被告坂本が破産会社を設立する昭和五六年四月頃当時住んでいた福岡市から破産会社における勤務地である大阪市へ赴任するにあたり、被告宣子は福岡市に残り、被告坂本のみ単身にて赴任して別居することとなったこと、本件(一)(二)の不動産は昭和五七年四月二日に購入したのであるが、これは被告宣子が同坂本の留守中に近所で売却の話にのぼっていた本件(一)(二)の不動産を探してきて購入することとなり、代金三九〇〇万円であったところ、その内金一九〇〇万円が頭金であり、そのうち六〇〇万円を被告宣子の母から、四〇〇万円を同被告の親戚から借り受け、残額九〇〇万円を被告坂本の月収の中から預けていた貯金によって支払ったこと、その後被告坂本において昭和五八年一月までの一〇か月間毎月三三万円のローンの支払をしたが、その後同被告において支払をしないため、被告宣子がその母、親戚から借りて支払ってきたこと、本件(一)(二)の不動産の所有名義はローン等の関係から被告坂本としていたこと、昭和五八年四月現在で頭金、ローン支払を含めて支払額は合計二三二九万円であり、その内被告坂本の負担とみられるものは合計一二三〇万円、被告宣子の負担とみられるものは合計一〇九九万円であること、その後のローン返済は被告坂本の無資力のため実質上は被告宣子が支払わざるをえない結果となっているので、本件口頭弁論終結時には被告宣子の負担割合は右割合より増加こそすれ、減少するとは考えられないこと、被告坂本は前記破産会社設立時頃の別居後も時々妻子に会いに福岡市の被告宣子方を訪れていたが、昭和五八年二月頃被告宣子に対して経営している会社の経営がうまくない旨打ち明け、被告宣子はこれを聞いて従前の夫婦間の精神的、財産的経緯からみて夫の行為により自己が犠牲になることは我慢ならないとして、正式の離婚をすべく被告坂本と交渉し、同被告も正式離婚も止むをえないが子供との面接の機会は確保したいと考え、本件(一)の不動産の四分の一を自己に残しその余を、離婚に伴う慰謝料の要素を含む財産分与として贈与の形式にて譲渡することを承諾し、前記認定のとおり本件(二)の不動産の各三分の一宛を被告宣子、同久美、同宗久に、本件(一)の不動産の各四分の一宛を同人らに贈与したこと(実質は被告宣子に対する財産分与であるが、名義を分けたものである)、その後被告坂本と同宣子との間に交渉を持ち、前記認定のとおり本件破産の申立の日に離婚することとし、同日付にて本件(一)の不動産の残余の四分の一の持分を離婚に伴う財産分与として被告宣子に譲渡することとし、その旨の移転登記手続きをしたこと、被告坂本は別に大阪市内でマンション一戸を所有しているが、本訴認容の原告らに対する債務額に対比するとこれのみで右債務額を弁済するに足りないこと、被告坂本は破産宣告以来無職であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実に前記認定事実を加え、これに基づいて詐害行為の成否について検討する。被告坂本の同宣子に対する離婚に伴う財産分与中本件(一)(二)の各不動産のすくなくとも三分の二を越える部分は被告坂本の債権者を害するものというべきである。被告坂本は右離婚、財産分与の日頃はただちに破産宣告を受けるべき会社の代表者であったのであり、その後破産宣告以来本件最終口頭弁論期日まで無職であり、本訴認容の原告らに対する債務額に対比すると無資力というべきである。そして被告坂本も同宣子も右本件(一)(二)の各不動産に関する贈与、財産分与がなされたときにはこれにより被告坂本の債権者を害することを知りかつこれを認容していたものというべきである。

ところで、本件においては、詐害行為は前記のとおり共有持分を被告宣子、同久美、同宗久に対して贈与又は財産分与するという形式をとってなされており、これら共有持分は可分であるので、詐害行為として取消すに際してはこれら共有持分を目的とした各行為を取消すべきであり、いずれを取消すかは行為当事者の意思を忖度して決めるべきであると解すべきである。弁論の全趣旨及び前記認定の事実によって考えると、被告坂本及び同宣子は父母として子である被告久美及び同宗久を優先して考えていたことが認められるので、本件において詐害行為として取消さるべき行為は被告宣子に対する行為であると認めるべきである。

又、詐害行為の目的物に抵当権が設定されているが第三者を抵当権者とする場合においては、これが付着したまま取消をしても以後抵当権者は優先弁済を受けるにつき何らの支障もないので、価格賠償をしないで詐害行為の取消ができると解すべきである。本件においては本件(一)(二)の不動産に株式会社三井銀行を抵当権者とする昭和五七年四月二日付の抵当権が設定されており、右の場合に該当するので、同抵当権付着のまま取消すことができるというべきである。

それゆえ、その取消されるべき本件(一)(二)の各不動産に関する贈与、財産分与の部分は本件(一)の不動産については被告宣子の名義部分中昭和五八年四月二八日付財産分与及び同年同月一日付財産分与(登記簿上贈与)のうち全体の一二分の一に相当する部分、本件(二)の不動産については被告宣子名義部分であると解するのを相当とする。

以上の理由により、被告坂本と同宣子との間において、本件(一)の不動産につき昭和五八年四月二八日なされた財産分与(持分四分の一)及び同年同月一日なされた財産分与(登記簿上贈与)(持分四分の一)の中全体の一二分の一の部分並びに本件(二)の不動産につき同日なされた財産分与(登記簿上贈与)(持分三分の一)はいずれもこれを取消すこととし、被告宣子が、原告らに対し、本件(一)の登記につき坂本俊文持分一二分の二移転登記との更正登記手続並びに本件(二)、(三)の登記の抹消登記手続をなすことを命ずることとする。

2  被告惇子関係

〈証拠〉を総合すると、被告永松と同惇子とは昭和四五年五月一四日結婚し、その間に二男一女をもうけたが、被告永松の飲酒癖、これに伴う暴力のため夫婦仲は悪く、昭和五三年春頃には女性問題ももちあがり、被告惇子は日頃から不満を抱いていたこと、しかし子供や生活上のことから離婚に踏み切るに至らなかったこと、昭和五四年三月一九日本件(三)(四)の不動産を一九〇〇万円で買い受け、その内六〇〇万円を頭金として支払い、残一三〇〇万円をローンで組んで支払ったが、いずれも被告永松の収入によって支払ったものであること、被告惇子は昭和五八年初め頃被告永松の取締役として勤務する破産会社が倒産しそうだということを知り、これを契機に離婚をしたいと考えて被告永松と交渉し、前記認定のとおり、昭和五八年四月二四日離婚することとし、同日離婚に伴う財産分与として本件(三)(四)の不動産の譲渡を受けることとなり、離婚の届出は同年五月四日になし、所有権移転登記は同年四月二五日に了したこと、しかし被告永松と同惇子はその後も同年七月まで同居し、その後昭和五九年四月まで被告永松が東京において勤務していた間は別として、その後も現在に至るまで同居していること、被告永松は右財産分与の頃若干の現金を有してはいたが、本件(三)(四)の不動産がその財産として重要なものであったこと、現在被告永松は岡安商事という商品取引委託等を業とする会社に一従業員として勤務しているが、その収入により本訴認容にかかる原告らに対する債務を支払うことは困難であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実に前記認定事実を加え、これに基づいて詐害行為の成否について検討する。被告永松の同惇子に対する離婚に伴う財産分与は、その制度の趣旨に照らして考えても、その全額が、被告永松の債権者を害するものというべきである。被告永松は右離婚、財産分与の日頃はただちに破産宣告を受けるべき会社の代表者であったのであり、その後破産宣告以来本件最終口頭弁論期日まで転々と商品取引委託等を業とする会社に勤務してきたが、本訴認容の原告らに対する債務額に対比すると無資力というべきである。そして被告永松も同惇子も右本件(三)(四)の不動産に関する財産分与がなされたときにはこれにより被告永松の債権者を害することを知っていたものというべきである。

それゆえ、被告永松と同惇子との間において、本件(三)、(四)の各不動産につき昭和五八年四月二四日なされた財産分与はいずれもこれを取消すこととし、被告惇子が原告らに対し、本件(八)、(九)の登記の抹消登記手続することを命ずることとする。

八以上の次第で、原告らの本訴請求は右五ないし七項記載の限度で理由があるので、その限度で認容することとし、その余は棄却することとし、民訴法九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官東孝行 裁判官大竹優子 裁判官近下秀明は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官東孝行)

別紙債権目録(一)

(原告番号)(原告の氏名)(金額)(円)

一  天野昭一 一一九五万六五二九

二  高橋花治 七八〇万〇五八三

三  武居静雄 九四万二三〇六

六  西尾利通 六一二万五九〇〇

七  真道文晴 四二四万一五一二

八  荒堀光信 一五〇万五九七四

別紙債権目録(二)

(原告番号)(原告の氏名)(金額)(円)

一  天野昭一 四九一五万一七六〇

二  高橋花治 八五八万〇五八二

三  武居静雄 二八九万六〇四八

四  濱岡國彦 七一二万三九一一

五  供野邦敏 四八〇万七四九一

六  西尾利通 一九五八万七四七四

七  真道文晴 九六七万三四六七

八  荒堀光信 一五二七万一八一八

九  佐々木康夫 三〇〇万四一九七

別紙債権目録(三)

(原告番号)(原告の氏名)(金額)(円)

一  天野昭一 四九一五万一七六〇

二  高橋花治 八五八万〇五八二

三  武居静雄 二八九万六〇四八

四  濱岡國彦 六五八万六六一〇

五  供野邦敏 四八〇万七四九一

六  西尾利通 一九五八万七四七四

七  真道文晴 九六七万三四六七

八  荒堀光信 一五二七万一八一八

九  佐々木康夫 三〇〇万四一九七

別紙個別主張〈省略〉

別紙書証目録〈省略〉

別紙別表(その一)、(その二)〈省略〉

別紙物件目録〈省略〉

別紙登記目録〈省略〉

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